白夜行:日文版-第76部分

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　益田はすぐに今枝を見つけて近づいてきた。
「久しぶりだな」そういって向かいの席についたが、注文を取りにきたウェイトレスには、「俺はいいよ、すぐに出るから」といった。
「相変わらず忙しいみたいだな」今枝はいった。
「まあな」益田はぶっきらぼうにいった。明らかに機嫌がよくなかった。ハトロン紙の封筒をテ�‘ブルに置いた。「これでいいのか」
　今枝は封筒を取り、中身を眨�べた。Ａ４のコピ�‘用紙が二十枚以上入っている。その内容にさっと目を通し、大きく頷いた。見覚えのあるものだった。中には今枝自身が書いた書類のコピ�‘もある。
「これでいい。悪かったな」
「いっておくが、もう二度とこんなことは頼まないでくれよ。事務所の資料を部外者に見せるというのがどういうことを意味するか、おまえだって何年も探偵をやってるんだからわからんわけじゃないだろう」
「すまん。本当にこれっきりだ」
　益田は立ち上がった。しかしすぐには出口に向かわず、今枝を見下ろして訊いた。
「今頃になってそんなものを欲しがるとはどういうことだ。尻切れ蜻蛉《とんぼ》の尻尾でも見つけたのか」
「そんなんじゃない。ちょっと確かめたいことがあっただけだ」
「ふうん。まっ、いいけどさ」益田は歩きだした。今枝の言葉を信じているはずはなかった。しかし仕事でもないことに首を突っ込みたくはないようだった。
　益田が店から出ていくのを見届けて、今枝は改めて書類に目を通した。三年前の日々がたちまち蘇る。枺�西電装株式会社の関係者という人物から依頼された、例の眨麞藞蟾鏁�をコピ�‘したものだ。
　あの時眨麞摔�頓挫《とんざ》した最大の原因は、メモリックス社の秋吉雄一という人物の正体を最後まで暴けなかったことだ。本名も経歴も、どこから来た人間なのかということもわからなかった。
　ところがつい先日、全く思いがけないところから秋吉の正体を知ることになった。笹垣刑事が見せた写真の男、桐原亮司は、かつて今枝が散々見張り続けた秋吉雄一に間摺�いなかった。
　パソコンショップを経営していたという経歴も、秋吉にはふさわしいものだし、桐原が大阪から姿を消したという時期は、秋吉がメモリックスに入社した時期と合致しそうだった。
　最初今枝は単なる偶然だと思った。以前追っていた人物の正体が、数年後全く別の眨麞摔颏筏皮い皮窑绀い趣铯�るということも、長年こういう仕事をしていれば起こりうることなのかもしれないと解釈していた。
　だが頭の中で整理するうちに、それがとんでもない錯覚だということに気づいた。偶然でも何でもなく、枺�西電装から依頼された眨麞摔冉窕丐握｛査は、じつは根っこの部分で繋がっているのではないかと思えてきた。
　そもそも今回の唐沢雪罚Г碎vする眨麞摔蚝S塚から依頼されたきっかけは、ゴルフ練習場で高宮栅然幛盲郡长趣馈￥扦悉胜激ⅳ违触毳站毩晥訾诵肖盲郡�というと、三年前、秋吉を尾行していて、訪れたことがあったからだ。高宮のことも、その時に知っていた。高宮は、秋吉が追いかけていた三沢千都留という女性と親しくしていたのだ。そして高宮栅蔚睍rの妻こそ、唐沢雪罚Г坤盲俊�
　笹垣刑事は桐原亮司のことを、唐沢雪罚Г认嗬�共生する存在のようにいっていた。あの老刑事がそのようにいうからには、何らかの根拠があるに摺�いなかった。そこで実際に桐原と唐沢雪罚Г伍gに密接な関係があると仮定して、三年前の眨麞摔蛘瘠攴丹盲皮撙搿￥工毪趣嗓Δ胜毪�。
　何のことはない。答えはすぐに出る。雪罚Г畏颏蠔｜西電装特許ライセンス部に勤務している。社内の技術情報を管理する立場の人間だ。それはトップシ�‘クレットに関与できるということを意味する。コンピュ�‘タから極秘情報を呼び出すＩＤやパスワ�‘ドも与えられているだろう。無論それは決して人に見せてはならないものだ。高宮もその規則を守っていたに摺�いない。しかし妻に対してはどうだったか。彼の妻ならば、ＩＤやパスワ�‘ドを知り得たのではないか。
　三年前、今枝たちは秋吉雄一と高宮栅慰帳�りを見つけだそうとした。しかし何も見つからなかった。見つからないはずだ。タ�‘ゲットにすべきは高宮雪罚Г韦郅Δ坤盲郡韦馈�
　さてそうなると今枝としては、もう一つ気になることが出てくる。三沢千都留と高宮栅韦长趣馈Ｇ锛�すなわち桐原は、一体何のために千都留を見張っていたのか。
　雪罚Г祟mまれて、彼女の夫の浮気を眨�べていたという推理も成り立たないではない。しかしそう考えるには、腑に落ちないことが多すぎた。まずなぜそれを桐原に頼むのかということだ。浮気眨麞摔胜椁刑絺嗓蚬亭à肖いぁ￥饯欷摔猡犯邔m栅胃�気を眨�べるということであれば、高宮を見張るのがふつうではないか。三沢千都留を見張っていたということは、すでに彼女が高宮の愛人であることは確認済みだからだろう。ならばそれ以上の眨麞摔喜灰�のはずだ。
　そんなことを考えながら今枝は益田から受け取ったコピ�‘を読んでいった。やがて奇妙なことに気づいた。
　桐原が三沢千都留を尾行して最初にイ�‘グルゴルフ練習場に行ったのは、三年前の四月はじめのことだ。その時ゴルフ練習場に高宮栅犀Fれていない。その二週間後、再び桐原はゴルフ練習場に行った。そこで初めて高宮栅�今枝たちの前に姿を見せる。彼は三沢千都留と親しそうに話していた。
　その後、桐原は二度とゴルフ練習場には足を撙螭扦い胜ぁ￥坤�今枝たちは引き続き三沢千都留と高宮栅螛斪婴蛱饯盲皮い俊１说趣沃伽紊瞍蓼盲皮い瘶斪婴�、当時の記録を蓿�るとよくわかる。眨麞摔�打ち切られる八月上旬時点で、二人は完全に不倫関係に入っている。
　奇妙なのはここだ。二人の仲が深まっていくというのに、雪罚Г虾韦问证獯颏郡胜�ったのだろうか。何も知らなかったとは思えない。桐原から情報が入っていたはずだ。
　今枝はコ�‘ヒ�‘カップを口元に撙螭馈％畅‘ヒ�‘はすっかりぬるくなっていた。こんなふうに冷めたコ�‘ヒ�‘を、つい最近も飲んだことを思い出した。篠塚と銀座の喫茶店で会った時だ。
　この瞬間、不意に一つの考えが今枝の頭に浮かんだ。全く別の角度からの発想だった。
　雪罚Г�高宮栅葎eれたがっていたとしたらどうだ――。
　考えられないことではない。川島江利子の言葉を借りれば、高宮は最初から彼女にとって最愛の男ではなかったはずなのだ。
　別れたいと思っていた夫が、うまい具合にほかの女に気持ちを寄せ始めた。ならばそれが不倫に発展するまで待ってみよう。そんなふうに雪罚Г峡激à郡韦扦悉胜い�。
　いや、と今枝は心の中でかぶりを振る。あの女は、そういう成りゆき任せの生き方をする人間ではない。
　三沢千都留と高宮との出会いやその後の進展が、すべて雪罚Г斡嫽�通りだったとしたら――。
　まさか、と思う。だが同時にあるいは、とも思う。そんなことはありえないと簡単には否定できない何かが、唐沢雪罚Г趣いε�にはある。
　しかし人間の心をそう簡単にコントロ�‘ルできるものだろうかという疑問は残る。三沢千都留がこの世で最高の美女だったとしても、万人が恋に落ちるとはかぎらない。
　ただし以前から恋心を抱いていた相手ならば話は別だ。
　今枝は喫茶店を出ると、公须娫挜堀氓�スを見つけて中に入った。手帳を見ながら番号ボタンを押す。かけた先は枺�西電装枺�京本社だ。高宮栅蚝簸映訾筏皮猡椁Α�
　しばらく待たされた後、高宮の声が聞こえた。「高宮ですが」
「もしもし、今枝です。お仕事中すみません」
　ああ、と少し戸惑った声がした。探偵というのは、あまり職場には電話をかけてきてほしくない相手なのだろう。
「先日はお忙しいところ申し訳ありませんでした」唐沢雪罚Г卧^券について尋ねた時のことを詫びた。「じつはもう一つお尋ねしたいことがありまして」
「どういったことですか」
「それはお会いしてからお話ししたいんです」あなたと今の奥さんの馴れ初めに関することだ、とは電話ではなかなかいえなかった。
「今日か明日の夜は、あいてませんか」
「明日ならいいですが」
「そうですか。じゃあ、明日もう一度お電話します。それでいいですか」
「いいですよ。ああそうだ、今枝さんに一ついっておかなきゃいけないことがあります」
「何ですか」
「じつは」と彼は声を落とした。「数日前に、僕のところに刑事が来たんです。かなり年輩の大阪の刑事でした」
「それで？」
「最近前の奥さんのことで誰かから伲鼏枻蚴埭堡郡长趣悉胜い�と訊かれたので、今枝さんの名前を出してしまったんです。いけなかったでしょうか」
「あっ、そうでしたか……」
「やはりまずかったですか」
「いや、それはまあ、いいです。あの、私の職業のこともお話しになったんですか」
　ええ、と高宮は答えた。
「そうですか。わかりました。ではそのつもりをしておきます」失礼します、といって電話を切った。
　このセンがあったかと今枝は舌打ちしたい気分だった。笹垣は全く苦労せずに今枝に行き着いたのだ。
　するとあの盗聴器は、どこの誰が仕掛けたものなんだ――。

　今枝が自分のマンションに戻ったのは、この日の夜遅くになってからだった。別口の仕事であちこち回った後、久しぶりに菅原剑�里が働いている居酒屋に寄ったからだ。
「あれからはもう部屋にいる時は絶対にチェ�‘ンをしてるから」と彼女はいった。誰かに忍び込まれた気配も、彼女が感じるかぎりではないという話だった。
　マンションの前に、見慣れない白のワンボックスバンが止まっていた。それをよけるように歩き、建物の中に入った。そのまま階段を上がる。身体が重く、足を撙证韦鈨｜劫《おっくう》だ。
　部屋の前まで来て、鍵をあけようとポケットを探っている時、廊下に台車と折り畳まれた段ボ�‘ル箱が立てかけてあるのが目に留まった。段ボ�‘ル箱は洗濯機が入りそうなほど大きなものだった。誰が置いたのかなと一瞬思ったが、さほど気に留めなかった。このマンションの住民はマナ�‘が悪く、廊下にゴミ袋が出したままになっていることもざらだ。今枝にしても、優等生の店子《たなこ》では決してない。
　キ�‘ホルダ�‘を取り出し、部屋の鍵を鍵穴に差し込んだ。右に捻ると、かちゃりと外れる感触があった。
　この時ふと、彼は摺�和感を抱いた。鍵の具合に、いつもと摺�うものを感じたような気がしたのだ。一、二秒考えてから、彼はドアを開けた。気のせいだろうと決めつけていた。
　明かりをつけ、室内を見渡す。特に変わったことはない。部屋はいつものように殺風景で、いつものように埃っぽかった。男臭さを消すために、芳香剤の香りをやや強めにしてあるのも、いつものことだった。
　彼は荷物を椅子に置き、トイレに向かった。ほどよく酔っている。少し眠く、少しだるい。
　トイレの明かりのスイッチを入れる時、換気扇のスイッチが入ったままになっていることに気づいた。おかしいな、と思った。こんな不経済なことをしただろうか。
　ドアを開ける。洋式トイレの蓋《ふた》が、ぴったりと椋Г袱椁欷皮い俊￥长欷猡蓼俊⒁凰裁瞍坤人激盲俊Ｉwを椋Г袱肓晳Tなどなかった。たいてい蓋も便座も上げたままだ。
　ドアを椋Г浮⒈摔仙wを開けた。
　その瞬間、全身の警報機が鳴りだした。
　とてつもない危険が自分の身に襲いかかってくるのを彼は感じた。蓋を椋Г袱瑜Δ趣筏俊Ｒ豢踏庠绀�ここから出なければ――。
　とこ